「測れないものは、本当に存在しないのだろうか」
仕事の現場では、判断を早く、正確に下すことが求められます。迷っている時間はない。数字や基準があると、話は早い。
私自身、運送・物流の現場で35年働く中で、「感覚よりもルール」「個人の事情よりも全体」——そう割り切らなければ回らない場面を、何度も経験してきました。
それは合理的で、間違ってはいない。ただ、ときどき引っかかる感覚が残ることもあります。数字は合っている。手順も正しい。それでも、何かが置き去りにされているような感覚です。
アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』を見たとき、その違和感に、少し形が与えられた気がしました。
📊 すべてが数値化される世界——PSYCHO-PASSが描く社会
シビュラシステムとは何か
『PSYCHO-PASS』の世界では、「シビュラシステム」と呼ばれる巨大な管理システムが社会を統治しています。このシステムは、人々の心理状態を常時スキャンし、「犯罪係数」という数値で測定します。
- 犯罪係数が一定値を超えると、犯罪を犯していなくても「潜在犯」として隔離される
- 色相(サイコパス)が濁ると、社会的信用を失い、職業選択も制限される
- 適性診断により、最適な職業が自動的に割り振られる
一見すると、これは完璧な社会に見えます。犯罪は未然に防がれ、人々は自分に最適な仕事に就き、ストレスなく暮らせる。数値という明確な基準があるから、迷う必要もありません。
でも同時に、この世界では測れるものだけが、判断の対象になります。測れない感情や迷い、言葉にできない違和感——それらは、最初から存在しないかのように扱われます。
💡 現場との共通点
運送業でも、「配送時間」「積載量」「燃費」など、数値で測れるものが評価の中心です。でも、荷物を丁寧に扱う心遣いや、取引先との信頼関係は、数字には出ません。それでも、確かに価値がある——そう感じる瞬間があります。
🧠 「見えない」のではなく「見ようとしない」——養老孟司の洞察
養老孟司の名著『バカの壁』は、2003年の発行以降、400万部を超えるベストセラーとなりました。この本が問いかけるのは、「人は理解できないものを、見ない」という人間の本質です。
「バカの壁」とは何か
養老は、人が情報を受け取るプロセスを「y=ax」という式で表現します。
- x:外部から入ってくる情報
- a:その情報への関心度(理解しようとする姿勢)
- y:実際に得られる理解
もし「a」がゼロなら、どんなに重要な情報(x)が来ても、理解(y)はゼロのまま。これが「バカの壁」です。
つまり、無知そのものが問題なのではなく、自分が見ていないことに気づかない状態こそが、真の「壁」なのです。
サイコパスの社会も、この構造に似ています。完璧なシステムを持ちながら、その内側で、見えないものを切り捨て続けています。数値化できないものは、最初から判断の外に置かれる。すると世界は、分かりやすく、管理しやすくなります。
💭 引用:養老孟司『バカの壁』より
「人間というのは、結局、自分の脳に入ることしか理解できない。その意味で、万人が『バカの壁』を抱えている」
(養老孟司『バカの壁』新潮社, 2003年, p.23より引用)
🚛 現場で感じる「測れないもの」の価値
運送・物流の現場でも、似た場面は数多くあります。
数値では測れないが、確かに存在する価値
-
評価基準に載らない努力
→ 荷物を傷つけないための細やかな配慮、雨天時の養生、積み込みの工夫 -
数字には出ない気遣い
→ 取引先との信頼関係、現場スタッフへの声かけ、後輩への丁寧な指導 -
マニュアルに書かれていない判断
→ 状況に応じた臨機応変な対応、現場の雰囲気を読む力、チームの士気を高める存在感
これらは往々にして、「なかったこと」にされがちです。悪意があるわけではありません。ただ、見えないから。測れないから。
📖 現場のエピソード:ベテランドライバーの「見えない仕事」
以前、ある若手ドライバーが「なぜベテランさんの評価が高いのか分からない」と言っていました。配送時間も積載効率も、自分の方が数値的には上だったからです。
でも、取引先に話を聞くと違いました。「あの人が来ると、現場の雰囲気が明るくなる」「細かい気配りがすごい」「困ったときに頼りになる」——そういう評価が、数値の向こう側にあったのです。
これは、まさに「測れない価値」でした。でも、その価値がなければ、長期的な信頼関係は築けません。
🔄 選択理論が示す「内部コントロール」の視点
ここで、私が現場で実践している選択理論(青木仁志の教え)との関連を考えてみます。
外部コントロールの罠
サイコパスの世界は、究極の「外部コントロール」社会です。システムが人を測り、判断し、管理する。個人の意志や選択は、数値の前では無力です。
一方、選択理論は「人は内側から変わる」ことを重視します。外側から強制されても、本当の変化は起きない。自分で選び、自分で決めるからこそ、行動が変わるのです。
「測れないもの」の多くは、この内側の動機や価値観から生まれます。だから、数値では捉えられないのかもしれません。
💡 選択理論の5つの基本的欲求
1️⃣ 生存の欲求:安全、健康を求める
2️⃣ 愛・所属の欲求:つながりを求める
3️⃣ 力の欲求:認められたい、達成したい
4️⃣ 自由の欲求:自己決定したい
5️⃣ 楽しみの欲求:学びや成長を楽しむ
これらの欲求は、数値では測れません。でも、私たちの行動を深く動かしています。
⚖️ 合理性の先にあるもの——「測る」と「感じる」のバランス
誤解しないでいただきたいのは、合理性を否定しているわけではないということです。数値化、効率化、システム化——これらは私たちを確実に助けてくれます。
でも、合理性だけに頼ったとき、何がこぼれ落ちているのか。それに気づく余白があるかどうかで、世界の見え方は変わります。
🤔 自分に問いかけてみる
- ▶ あなたの周りには、数値では測れないけれど、確かに「そこにある」ものはないでしょうか?
- ▶ そして、それを見ないことにしてはいないでしょうか?
- ▶ 自分が「測れるもの」にばかり注目して、「測れないもの」を切り捨てていないか?
答えを出す必要はありません。ただ、その壁の存在に気づくことから、何かが変わり始めるのかもしれません。
📺 『PSYCHO-PASS サイコパス』視聴方法・配信情報
🎬 作品情報
- 原作:Production I.G(オリジナルアニメ)
- 監督:塩谷直義(第1期)、鈴木清崇(第2期)
- 脚本:虚淵玄(第1期メインライター)
- 放送期間:第1期(2012年10月-2013年3月)、第2期(2014年10月-12月)
💻 主な配信サービス(2025年1月現在)
- Amazon Prime Video:全シリーズ見放題配信中
- U-NEXT:第1期・第2期・劇場版配信中
- dアニメストア:全シリーズ見放題
- Netflix:一部作品配信(地域により異なる)
※配信状況は変更される場合があります。各サービスでご確認ください。
📖 関連書籍
養老孟司『バカの壁』(新潮社, 2003年)は、全国の書店・オンライン書店で購入可能です。新潮新書として手軽な価格で手に入ります。
✨ 最後に:一瞬の注目より、一生の信頼
数値は、私たちに明確な指針を与えてくれます。でも、数値だけが真実ではありません。
現場で35年働いてきて感じるのは、長く続く信頼関係は、測れないものの積み重ねから生まれるということです。
サイコパスの世界も、バカの壁も、私たちに「見えないものを、どう扱うか」を問いかけています。その問いに、今日から少しずつ、向き合ってみませんか?
🚀 今日からできる小さな一歩
明日、職場や日常の中で、「数値では測れないもの」を1つ、意識的に見つけてみてください。それは同僚の気遣いかもしれないし、自分の小さな誇りかもしれません。
その積み重ねが、あなたの「見える世界」を、少しずつ広げていきます。



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